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michi suwa

じゅん

朝、トイレに入るとタイルの床にじゅんが横たわっていた。灯りをつけて声をかけると、足を震わせながらゆっくりと立ち上がり、隣の暗い納戸の中に入っていった。

息子を送った後、夫がじゅんを動物病院に連れて行った。間もなくして電話が鳴った。夫から、点滴をしたが意識がない様だと。タクシーを呼んで動物病院へ向かった。キャリーケースが解体されて底の四角いトレーだけになったものの中に横たわったじゅん。助手と思われるマスクをした女性がタオル越しにじゅんの体にドライヤーをあてている。顔に生気はなく、撫でても反応はなかった。体温も血圧も下がっているから、湯たんぽのようなもので温めてあげると心地良いかもしれませんと、獣医が言った。トレーに入れたまま膝に乗せて、タクシーで家に帰った。

体にかけたタオルはゆっくりと上下に動いている。たまに話しかけ、たまに湯たんぽを温めなおし、たまに頭を撫でて、傍らにいた。

お昼をまわった頃、目や耳が少し動くようになった。話しかけると、尻尾の先を少し動かして応えた。じゅんほど尻尾で情緒を表す猫はいないのではと思う。大抵は迷惑そうに、構ってくれるなと、パタンパタンとわざと床を鳴らすように尻尾を振る。今は先っぽのかぎ型に曲がったところを少し動かしているだけだが、それがとてもじゅんらしく、流石だなと思う。

それからは、震えながらもゆっくりと体の向きを変えたり、首をもたげて周囲を見たりし始めた。夕方には、自分の足で歩いて猫のトイレコーナーまで行き用を足せるまでに回復した。息子が幼稚園から帰ると、体を半分起こして息子の姿をじっと見ていた。夜は、いつも寝ている2階のベットまで、ゆっくりと階段を上っていった。

ただ、餌や水を口にしようとはしない。

目はさらに深く細くなっている。

もう少し、もう少し、とその時が来るのを引き延ばしながら、それでもやっぱり、その時を待つことしか出来ない、そういう時間を過ごしています。