停電

晴。

起き抜けの漢方薬はまだ慣れない。この苦味が何ともないと思える日がいつか来るだろうか。

夫は二階の残りの床塗りをする。私と息子はエリック・カール展を見に世田谷美術館へ。田園調布駅からバスに乗って砧公園へ。美術館の入り口までの舗装された道は木陰になっていて涼しい。木陰を作っている木立の裾向こうの芝生は陽の眩しさで黄金色に見える。子どもたちが遊ぶ影が黄金色をかき混ぜ、眩しさを増幅させていた。視線を遠くに延ばすとすぐに空にぶつかる起伏の多い横浜の公園と違い、この木陰の先の黄金色が何処まで続いているのか見当がつかない。黄金色から道に走り出てくる子どもや自転車が、いったい何処から来て何処へ行くのか、地形の支配のない場所の無限性に不安になる。美術館の中ははらぺこあおむしのファンの親子連れでごった返していた。息子もあおむしくんの美術館と言って楽しみにしていたが、人混みにすっかり気持ちを削がれ、入ってものの数分で外に出たいと言い出す。仕方なく、スポットライトに照らされた壁づたいに並ぶ黒い人垣の背後を、展示の順路通りに足早に通り過ぎ、出口に到着。ホッとした様子の息子を二階の常設エリアに誘って、人の疎らな展示室でしばらく過ごした。私はそもそも常設エリアが目当てだったので、ありがたいと言えばありがたい。

美術館を出て、大学時代からの友人宅へ。2年ぶり2度目の訪問。息子はおぼろげに覚えているのか、リラックスした様子で遊んでいた。

家に帰ると夫が夕食を用意してくれていた。夕食を食べて、夫と風呂に入った息子を寝かしつける。息子が眠ったと思うとすぐ、突然灯りが消えた。夫がブレーカーを見たが落ちていない。どうやら停電したらしいことが窓の外の近所の人の話し声からわかった。ろうそくに火をつけて、息子を挟んで横になり、事態が動くのをただ待った。すぐに戻るだろう楽観しながらも、もしかすると何日も続くかもしれないという思いも拭えず、昼間の公園で感じた平らな不安を思い出していた。川の字に横になったまま、今日の息子の様子を夫に話していると、灯りがついて、エアコンや冷蔵庫がブーンと鳴り出した。

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